ordinary life

シティーハンター二次創作と萌え語り

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
原作以上のお話。
かなり暗い内容です、糖度10%ぐらいですね^^;




<背中>



暗い深海をただ揺れるまま漂っているような、そんなイメージだろうか。
恐怖はない。苦しみも、悲しみも。
あらゆる感覚は麻痺している為、何も感じず少しの情も沸かない。
そこにあるのは、果ての見えない冷たい世界だ。
遥か遠くから微かに聞こえる不安定な低音が、やはり自分は生きているのだという事を思い出させた。

平坦な道を歩いていたはずが、次の一歩を踏み出した途端、地は歪み足を取られ、何かに引きずり込まれるようにずるりと沈む。
落ちてしまったら、その空間には底がないから、永久に安定する事はない。
だから心を失くし、無になるしかない。
感情を手放さなければ、発狂し自己が崩壊してしまう。
そうなれば生きていく事など出来はしないのだ。



背後で優しい呼吸を繰り返す気配を一瞥し、再び視線を低い宙に戻す。

記憶の大半は無機質な黒で形成されていた。
だが今は色彩のある風景に変化している。
香がもたらしてくれた新しい風景が、眼前に広がっている。
この一面の白をいつまでも瞳孔に映す事が出来たのなら、これ以上幸せな事はないだろう。
しかしそんな事は無理に決まっていると、全身に闇を纏ったもう一人の自分が、抑揚のない声で現実を突き付ける。
その世界は相応しくないと、冷たく嘲笑っていた。

確かにそのとおりだ。
表面上は穏やかな生活を送り、唯一心から望んだ存在もこの手の中にあるというのに。
この世に生まれ落ちた時から宿命が与えた深い闇に、未だ苛まれる。
傍らに温もりを感じている今この時でさえも、消えはしなかった。




ベッドの端に座り向けられた広い背中を、ただぼんやりと見ていた。
何かが違うと直感する。
唇も、指も、同じように思えて、でも酷く違和感がある。
いつもと違っていたのは、心だろうか。

全てが通じ合えば、言葉がなくとも理解出来るなんて、そんなのは嘘だ。
推測は出来たとしても、それは勝手な解釈であって確実ではない。
本人から紡ぎ出された言葉でなければ、本当の事など分からない。

闇を見つめたまま何を思うのか、知りたい。
でもそう思うだけで、それは声にならずに。
何をどう訊いたらいいのだろう。
問われたところで、それに答えてくれるだろうか。
心を知ったところで、そこから自分は何をすればいい。

不安な心は右往左往するばかりで、結局何も出来ない。
だから、その背中を見つめるしかなかった。


青い闇に浮かぶ薄い色素は、強靭な肉体に付けられた無数の傷。
一直線に伸びたもの、交差したもの、抉られたもの、その形状は様々だ。

ふと、一つの傷に目が止まる。
背中の中心よりやや左、心臓の位置と重なるそれ。
丸く窪んだものは、恐らく銃創だろう。
あの場所を撃たれたのだと、そう思うと、胸奥が激しく痛んで息苦しさを覚えた。

飛び込んだ弾丸は、皮膚を破り内部を破壊する。
体に開いた穴からは鮮血が流れ出した。

その瞬間をこの目で見るはずもなく、ましてそんな経験もない。
それなのに、脳裏に浮かんだ映像はあまりにリアルで、恐怖で体が震えた。
一発の弾丸が心臓を貫いていたら、想像するだけで激しい動悸が心身を冷たくした。

点在する傷が古いものばかりなのは、リョウが強い人間である証だ。
傷つきながらも、想像を絶する過酷な世界を生き抜いてきた事の証明。
何度も血を流しては、肉体と心の痛みに耐え、生きてきた。

リョウがどんな過去を生き抜き、今何を思うのか、分からない。知りようがない。
確かなのは、リョウは今生きて、私の傍にいるという事。ただそれだけ。
その事実が嬉しくて、悲しかった。
手の届く場所にあるはずの背中が、遠ざかっていくようで。
向けられた背中が、自分の存在を見ていないようで、切なかった。

だから、手を伸ばさずにはいられなかった。
労わりを拒まれるかもしれない。
そう思いながらも、自分はここに居るのだという事を、気付かせたかった。



僅かに空気が動く気配に気付き、意識を浮上させた。
背中に触れた柔かさに、一瞬強張った体は次第に緩み始める。
少し冷たくなった指先は、傷跡の表面を緩やかに辿っていた。

その覚束ない仕草に、胸が軋む。
戸惑いを感じる拙い動作は、まるで最深に沈んだ心を繋ぎ止めようともがいているようで。


香の手が肩口に移動した刹那、無意識のうちにその手をベッドに縫い止めていた。
大きく見開かれた瞳。
闇の中で鈍く光る瞳孔は、何の疑念もなく俺の胸を真っ直ぐに貫く。

この目に見据えられる度、俺は平伏してしまう。
心情の変化を感じ取り、その中に乱雑に介入するでもなく、必要としているものを与えてくれる。
知らず俺の心を包み込もうとしている大きな温もりには、香には到底敵わないと。


顔の両脇に手をつき香を囲むと、ベッドが鈍い音を立てて沈む。
その感覚が、あの闇に飲み込まれるイメージと重なった。
香が、何もない深い海に沈む風景が目の前を通り過ぎた時、俺は言い知れぬ恐怖を感じ、堪らず香を掻き抱いた。

耳元で小さく息を飲む音が聞こえ、腕の中の体が揺れる。
数秒動きを止めると、香の腕がそっと背中を抱いた。
深く、優しく、愛おしい強さで。

果てしなく黒い風景を香の瞳に映す事を、何よりも恐れている。
それは互いの終わりを、この世界の終わりを暗示しているように思えるから。

だから俺は、強くあらねばならない。
何度深い海に沈んだとしても、そこから這い上がらなければならない。
それが自分の為であり、何よりも香を守る為でもあるのだから。



きつく抱きしめた腕の中から、薄く笑う声がした。

「…なんかさ」
「…」
「なんか…おかしいね」
「…ん?」
「だって、ずっと…黙ったままだなんて」
「…確かに」

沈黙を破り言葉を交わすと、そっと微笑み合った。
思えばベッドに入ってからずっと閉口していた。
俺が何も言わないから、香も自然とそうなってしまっていたのだ。

心が沈んだままの自分に抱かれるのは、心地いいはずがない。
心にも体にも、快楽は訪れない。
それでも香は俺を受け入れ、抱かれた。
そして心の内面を元へ戻し、今こうして微笑んでいる。


「悪かった」
一拍の間の後、謝罪の意を汲み取った香は、俺の顔を両手で挟むと、ぐいと引き寄せた。
「謝るぐらいなら」
その先は言葉にせずとも、互いの体を通じて伝播する。

交わる視線は少しずつ熱を帯び始め。
どちらからともなく重ね合った唇は、通常の温度に戻っていた。
ちゃんとして






<あとがき>
くら…めっさ暗い。
リョウちゃんの過去は普通の人には想像もつかないぐらい凄まじいもので、体にも心にもたくさんの傷を負っているわけで。
だから時々どん底まで沈んでしまう時だってあると思うんですよね。
そんな時、きっと香ちゃんはそっと寄り添って優しくリョウちゃんを癒してあげるんだろうなぁ、と妄想したわけです。
えと、実はこのお話、10/26の記事『背中の傷』でいただいたコメントに非常に萌えまして、そこから妄想が広がったわけです。
コメントしてくださった朱貴様、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
お話がどーんと暗くなったので、せめてイラストだけでも甘く…と思ったのですが絵も暗くなっちゃった。(書いてる本人は結構ちゃらんぽらんな性格なんですけどね^^;)
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://qazzz.blog31.fc2.com/tb.php/405-ada1b20d

MAY

Author:MAY
CH(リョウ×香)のイラストと二次小説を好き勝手に書き散らしております。
たまに他のジャンルの萌えを語る事も。
最近嵐さん(特にリーダー)にはまってます…。

名前:
メール:
件名:
本文:

この人と友達になる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。